2016年3月16日水曜日

摺り師の1日

 
 
 
なかなか木版画家として作業しているところをブログにアップしていないので、
「もはや廃業したのでは」と怪しまれるといけないので、
「ちゃんとやってますよ」ということで、
本日は本摺りをしているところをご報告。
 
廃業といえば、昨日、秋葉原にある清水刃物店から
「廃業するので、これからは千葉の何とかさんへ引き継ぎます」という主旨の
お知らせが届いた。
 
清水刃物店は木版や能面作りなど、専門家用の彫刻刀を扱う専門店で、
お父さんから引き継いだ50代ぐらいの息子がちゃんとやっていたと思うのだが、
どんな理由か分からないがお店を閉めるという。
 
店はまるでそこだけタイムマシンで昭和初期に戻ったかのような、
地味で簡素で商売っ気のない様子だったが、
扱っている刀は一級品だし、研ぎの腕はピカイチで、
私は年に一度ぐらいの割りで何十本と大量に持っていって、
手持ちの彫刻刀のメンテナンスをお願いしてきた。
 
大学の頃、教授に紹介されて以来だから40年近いおつきあいだったのに、
辞められては困る。
つまり、他に同じレベルの品を扱っていたり、
研ぎの上手な人が見当たらないという希少価値のお店だった。
 
そんな残念なニュースが気になりつつも、
昨日から和紙を湿したり、絵の具の調合をしていたので、
今朝は早くから、新作の本摺りを決行した。
 
6月のグループ展に出品する予定の小品で、2点連作の作品だ。
 
昼と夜みたいな2点にしようと色彩プランを立て、
先週、試し摺りを採ったのだが、なんだかちょっと和風な感じになってしまった。
 
和風が悪いわけじゃないが、昼という感じでもないかもなどと
心の中でブツブツいいながら、作業を進めた。
 
本日の本摺り応援団は
1982年に来日したときのピアソラ・キンテート楽団によるライブ盤。
 
藤沢蘭子なんていう実物を見たことも聴いたこともないタンゴ歌手が
ゲストで何曲か歌っている。
 
音源は古いが2004年にリメイクされ、いい音色になって再発売されたものだから、
さほど古さは感じないし、
何といっても歴史に残る素晴らしいライブだったと噂のコンサートなので、
その臨場感に包まれ、「私も本摺り、がんばろう!」という気になれる。
 
版画の作業はすべて孤独な作業なので、
1日中、誰ともひと言も口をきくことなく、
ただ時折、花粉の影響か、鼻水をすすり上げ、オヤジみたいなくしゃみをしながら、
黙々と粛々と版木と格闘するしかない。
 
そんなストイックな作業を見守って、
背中を押してくれるバックグラウンドミュージックとして、
今はピアソラ大先生のお力にすがっているというわけだ。
 
本日もつつがなく8枚の本摺りが終了。
 
今からお疲れ様の大福とチョコレートをいただき、
疲れた脳みそと体をいたわってあげようと思っているところだ。

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