2015年8月11日火曜日

猛暑VS木版の摺り

 
 
 
 
5月の個展の折に、ある人から、出品していたオブジェの作品を指して
「2月の現代美術の展覧会にぜひ出品してください」というオファーを受けた。
 
版画作品ならともかく、遊びのような感覚で創っているオブジェ作品が
そのような形で取り上げられるのは嬉しいことなので、
ぜひ出品しようと考えていた。
 
その現代美術の団体展は六本木の新美術館で行われるらしい。
展覧会名を「NAU21世紀美術連立展」という。
 
1ヶ月ほど前、私の作品にオファーをくれたこの展覧会の副理事長なる人から
だいぶ先の話ながら、展覧会の出品要項が送られて来た。
 
それによると、
その展覧会は出品者の出品料をもって運営されるから、
招待作家だろうが、一般応募の人だろうが、おしなべて出品料は
支払わなければならないとある。
 
まあ、それは仕方のないことかなと思い、更によくよく規定を読み込んでいくと
どうやら私のオブジェはそのままの形での出品は難しいということが
分かってきた。
 
それは新美術館の展示方法の規定に関係があった。
 
新美術館の壁には1本たりとも釘やピンを使うことが出来ず、
「すべての作品は吊り金具で吊れる状態にして展示すること」とある。
 
私の作品はオブジェの椅子やテーブルの背景として、
貼れパネという発泡スチロールの板をピンで止め、壁の状態にしていたが、
それはそのままでは展示が不可能ということである。
 
そこで、思い切って副理事長さんに連絡を取り、
どのようにしたらいいか意見を訊いたところ、
壁は使わず、真ん中に衝立状のものを創って、その両面に椅子とテーブルを置き、
2点の作品を合体させ、床置きのオブジェとしてはどうかという回答を得た。
 
六本木の新美術館の現代美術展に展示されている床に衝立を挟んで置かれた
我が作品の椅子とテーブルを想像してみた。
 
何だか急に遊びのオブジェが、いっぱしの現代美術に見えてくる。
個展の時に
何人かのオブジェ賛歌をしてくれた友人(とりわけ作家達)の顔を思い浮かべ、
ここはひとつ、面倒くさくても衝立を創ろうかという気になった。
 
普段からもっとDIY女子だったら、こんなこと簡単なのにと悔やんだが後の祭り。
今持てる知識を総動員し、財布の中身と相談しながら、
ニトリで見つけた夏用衝立をベースに手を加えて創ることに決定した。
 
買ってきた衝立は木枠に太い紙ヒモのようなもので編んで作った簡単なものだ。
それを下地としてその上に画用紙と厚ボールをまず貼り、しっかりした平面を作り、
そこに自分の作品である木目の千代紙を貼るめぐらせることにした。
 
そのためにはまず、木目の千代紙を大量に摺らなければならない。
 
この猛暑に木版の摺りをするのは、危険行為といっても言い過ぎじゃない。
何しろ、木版の摺りは完全なる肉体労働な上に
どんなに暑くてもクーラーが使えず、加湿器をかけなければならないのだ。
 
それを昼間に決行するのは自殺行為なので、
幾分マシかなと考え、夕べ、夜中に摺りを取りかかったのだが・・・。
 
ショートパンツにTシャツ、ノーブラ、すっぴんにメガネ、髪はゴムで縛るという、
これ以上はできない簡易スタイルで臨んだが、暑さという敵は容赦なかった。
 
摺り始めるとさっそく汗は体中から噴きだし、
したたり落ちた顔の汗は首を伝い、メガネの縁に水たまりを作り、
みるみる内に脇と背中中央のTシャツの色が変わった。
 
足の腿に吹き出た汗は正座しているため、触れているふくらはぎとの間で
ニュルニュルと滑り、自分の汗でまともに座っていられない。
もちろん敷いている座布団にも染みて、裏返しても湿っているほどだ。
 
ばれんで勢いよく摺ると、鼓動が早くなるのが分かるし、
顔が上気して、血圧が上がっている気がする。
 
この過酷さは炎天下に日雇いで働いている道路工事のおじさん並みだと思うが、
やっている作業はもっとデリケートなものなので、
汗との戦いだけじゃなく、ばれんを持つ手の痛みも伴って、
熱帯夜の真夜中にこんなことを始めてしまった自分の浅はかさを後悔した。
 
しかも、作っているのは背景の衝立だ。
たとえ首尾よく出来上がったとしても背景は背景にすぎない。
 
手前の椅子やテーブルはみんなしげしげ見てくれるが、
背景の衝立の出来具合にまで着目してくれることはない。
 
このままうまく作りおおせれば、
真夏のアトリエで汗にまみれて制作されたことは、
2月の展示の時には笑い話になるだろう。
 
でも、これで熱中症で倒れたとなると笑い話にもならないから、
水分補給と休憩だけはこまめに取りながら、
もう少し頑張ってみようと思っている。
 
 

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