2014年7月25日金曜日

戦利品の茶箱

 
 
 
 
 
私が所属して地域で家事介護支援をしている団体が今年の夏で5周年を迎えた。
今週は感謝の気持ちを表明しつつ、今後のご愛顧を賜るため、
事務所の半分を開放して寄付品を安価にてお譲りする「のみの市」を行っている。
 
私が子育て支援で伺っているお宅からも大量の寄付があり、
ご実家に眠っていた古い食器や、タオル類など
もらい受けてきて並んでいる。
 
連休明けの火曜日の朝、イベントのお手伝い要員として呼ばれた私は
そちらこちらから集まってきた品物を見やすいように並べる係を仰せつかり
「いくら100円200円の世界でも、こんなもの誰が買うのかしら」と
内心、思いながら作業をしていた。
 
そこに集まっていたのは
昭和の匂いプンプンの銘々皿のセットや壁掛け、頂き物に違いない湯呑みセット
趣味がいかがなものかと思われる大きな絵皿やお盆、花瓶などなど・・・。
古本や未使用のタオル類もあるがどこかかび臭い。
衣類もかなりあるにはあるが、提供者の年齢が分かるような渋い逸品?ばかり。
 
しかも、どこのお蔵から引っ張り出してきたのかと思うほど箱もお疲れ様だ。
そこに無造作にグリーンのテープが貼ってあり、
100円だの300円だの500円だのとマーカーで書いてあるが、
いくら安くとも一向に買おうという食指が動かなかった。
 
そして、本日、金曜日はそのイベントも最終日。
またまた売り子として呼ばれた私はお客さんが来ないので
売れ残っている品々をひとつひとつ見ながら、あらためて品定めをすることにした。
 
ひとつひとつ吟味している私の背後から
理事長が声をかけてきた。
「面白いもので、こんなものだれが・・って思うようなものが売れたりするのよ。
また、いくらいいものと分かっていても興味のないものは売れないしね」と。
 
「その典型がこのお茶道具よ。これ、きっと高いものなんじゃないかな。
私はお茶のことは全く分からないけど、どう?」
そう言われて古い紙箱を開けてみると、中からなんと茶箱が出てきた。
 
茶箱というのは例のお茶屋さんの大きな茶箱のことではない。
茶道で野点のように屋外でちょっとお茶を点てようという時に
お茶に必要な道具がすべてコンパクトにまとまって入っている茶道具のことである。
 
中を開け入っている小物達をとりだしてみると
名物裂のお仕覆に入った小さな茶碗と小さな茶入れ
象牙の茶杓、黄瀬戸の振出、茶筅立てと茶巾筒、波と千鳥の文様の出し袱紗など
それはそれは可愛い茶道具の数々だった。
 
中に金平糖を入れると言われている振出の底に黄ばんだシールが貼ってあり
2980円とある。
少なくとも昭和40年代か50年代あたりに求めたもので
振出ひとつが3000円だとしたら、
この茶箱の全体のお値段はいくらになるのか、ちょっと想像つかないが
それなりの金額になることは間違いない。
 
しかし、ものを知らないというのは恐ろしいもので
無造作に箱には1000円のテープが貼ってある。
 
げげげっ!
これこそ掘り出し物!
 
さっきまでゴミをつまむような手つきで品定めをしていたくせに
急に色めきだってきた。
 
その気で探すと、他にも西陣織の名物裂「亀甲鴛鴦」の懐紙入れや
乳白地に草と鳥が描かれた小ぶりの水差、唐津焼の花器、
菓子器に使えそうな鷺草が描かれた渋い陶器のお皿などが見つかった。
 
この歳になって、ものを増やしてはいけない。
それどころか、断捨離せねばともうひとりの自分が頭の後ろの方でささやくも
目の前に転がり出てきたお宝の数々に、気持ちはほとんどよだれを垂らしている。
 
結局、しめて2000円で、「持ってけドロボー!」と言われながら
これらを車に積み込み、嬉々として帰ってきた。
 
聞けば、この品々はすべて同じ方のおうちから届けられたというか、
老夫婦がホームに入ることになり、
家を取り壊す前にめぼしいものを何回かに分け、引き取ってきたものだという。
 
私も半年ほど前に一度お目にかかったあの上品なご夫婦が
短い間にそのような人生の選択をなさっていたとは・・・。
 
ちょっと切ない気持ちになった。
 
目の前にある品々は
きっと何十年と手つかずで押し入れ深く眠っていた物達だろう。
今回のことに際して
50代のふたごの娘さん達はいずれも母親の物は何もいらないと言ったとか・・・。
それもまた、悲しい話だ。
 
上品なあのご夫婦にも人には言えない親子の問題があったのかもしれない。
 
しかし、
このお道具達は、縁あって我が家にたどり着いたのだから、
また、私も押し入れに突っ込み放しになどにせず、使ってあげなければ。
 
そう思って、振出を手に取り、ふたを開け、中から金平糖が転がり出る様を想像した。


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